詩、朗読 その3


『歪んだ世界は戻らない』

私と共に沈む世界。世界と共に沈む私。

全部全部沈んでしまえば。
全部全部歪んでしまえば。
そんな願いを押さえ込む。

「世界と私は一蓮托生」なんて綺麗な言葉は似合わない。

誰も私を見ないで欲しい。
誰かに私を見てほしい。
楽になりたい。死にたくない。
認めて欲しい。放っておいて。
そんな矛盾をしまい込む。

「私と世界は一心同体」なんて綺麗な言葉で片付けないで。

歪んだ世界で探したモノは夢か現か幻か。

「光と闇は表裏一体」なんて綺麗な言葉でごまかさないで。

世界と共に沈む身体。
光を求めても助けは来ない。
淀んだ光が沈む現実を嘲笑う。

私と世界でかくれんぼ。
透明な私にうってつけ。

光と私でおにごっこ。
望みから逃げるなんてばかな人。

「もう一度」なんてあるわけないでしょう?

『うそつき』

「好きだ、愛してる」
口先ばかりで息をして
肺までいかない酸素のせいで苦しくなる
天気は曇天
門限11時声は届かず
いつもの様にとげがささる

縛られるのはもう疲れたんだ
通過列車が僕を迎えに来る
「好きだった、愛してた」
薄ら笑いで伸ばされた手を払った

『絶望の光へ沈む』

誰もが憧れる幻の地
俗界を離れた仙境
幻故に不完全な世界
幻故に完全な世界
不明瞭な光に縋る
手を伸ばした先には虚無
桃源郷に救いなどない
幻は幻でしかない
現世(うつしよ)から目を逸らして幽世(かくりよ)を求めた者は…

『ケーキを君に』

秋、君の誕生日。
クリスマスじゃないけれど、君にケーキを買っていこう。
季節限定のモンブランや栗のロールケーキ。
選ぶだけでもドキドキして。
喜んでくれるかな…
僕は一刻も早く君に会いたくて、早足でケーキ屋を後にした。

『untitled』

君と食べた記念日のショートケーキ
あの日の味を僕はもう思い出さない
甘くとろけるような幸せの味を

君との記念日に一人で食べたチーズケーキ
あの日の味を僕はもう忘れない
海に溺れるような後悔の味を

手を伸ばしても遠のいて、記憶の海に沈んでいく
大きな図書館の中で一冊の本に出逢うような確率論
一日は24時間だというような必然性

揺れる視界で
「溺れ、沈んでいたのは自分だったのかもしれない」
僕は目を閉じた

『檻の中』

画面越し、つたう雫
檻の中の花は咲かない
鳥籠にいるのは君か僕か
君に触れても感じるのは機械的な温もりだけ
画面越し、冷たい君にキスをした

『記憶と記録』

鉄(くろがね)の香り 哀情の蜜
足りない
このままじゃ満たされない
枯れたラベンダーを片手に
白い指から流れた代償は
秋のように赤い、爛れた欲求

白金(しろがね)の香り 欲情の蜜
知らない
この身体は縛られない
しなびたガーベラを両手に
黒い瞳から流れた我儘は
冬のように白い、甘えに没する

爪の先が君の髪に触れる
電子音が鳴り響き、全ては0と1に還元される
Delete間際に目に入ったのは微笑みだった
失ったDataにBackupはない

これは、Shutdownされた記録の物語

『代用品』

柵付きのベッドで仄暗い部屋を眺める
26時の煙草の匂い
4畳半の空気が冷たい
シングルベッドの右側に寝て、
左側に大きなぬいぐるみを置く
昨日買った120cmのうさぎ
隙間は埋まったはずなのに
私の隙(好き)は埋まらない
26時の煙草の匂い
このうさぎはもう手放せない
あの温もりはもう戻らない