第4節♡
彼は歩いていた。
暗い森の中、何かを探すように歩いていた。
あぁ、このままでは彼が離れてしまう…。
森の蔦が私の意思を汲み、彼に近づいていった。
彼に絡みつくはずだった。
……はずだったのに。
蔦は何かを躊躇ったかのように離れていった。
…心のどこかでは思っていたのかもしれない。
なんて残酷なのだろう。
私が彼をここに縛り付けているのに、
私は、彼に触ることがこんなにも怖いだなんて……。
暗い森の木の葉が、風に揺れてはらはらと舞っていた。
まるで私の代わりに涙を流しているかのように……。
第5節♢
僕はもう歩けなかった。
蔦が離れた時、僕は思った。
君が僕を縛り付けていたはずのこの空間は、もしかしたら僕が君を縛り付けるために作った空間なのかもしれない、と。
僕は歩き出した。
君を探すために。君に、もう一度出逢うために。
暗かったはずの森には、光が射していた。
第6節♡
私はもう動けなかった。
蔦が離れた時、彼は気づいたのだろう。
私が君を縛り付けていたはずのこの空間は、もしかしたら君が私を縛り付けるために作った空間なのかもしれない、と。
でも私は幸せだった。
だから、気づいて欲しくなかった。ずっと、縛り付けていて欲しかった。
彼は歩き出した。
私を探すために。私から、離れるために。
暗かったはずの森で君は、迷わず光射す扉へと向かっていた。
第7節♢
蕩けそうなほど優しい光で目が覚めた。
なにか、長い夢を見ていた気がする。思い出せはしない。
でも、幸せでつらい、そんな夢だった気がする。
頬を雫が伝った。なんの涙だったのかわからない。
僕は、「離れないで。」と呟いた。
無意識だった。
誰に向けていたのかも、なぜ呟いたのかもわからない。
育てているアイビーが、哀しげに揺れていた。
第8節♡
蕩けそうな優しい光で目が覚めた。
君はきょとん、としたようにそこに座っていた。
少しして、君の頬を雫が伝った。
なんの涙だったのかはわからない。
……いや、私は知っている。
君の涙のわけも、君の夢の原因も。
どこまでも私は、君を縛り付ける。
君は、「離れないで。」と呟いた。
無意識らしかった。
その言葉の意味に気がついた時、私は泣きそうになった。
私は風に触れて、ゆらゆらと揺れていた。